SACD ハイブリッド

モーツァルト「白鳥の歌」への、ベームの切々たる哀惜の念が結実。 

 
モーツァルト レクイエム

カール・ベーム(指揮)

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ウィーン国立歌劇場合唱団

価格:4,000円(税込)
ESSG-90269[SACD Hybrid]
DSD MASTERING
Super Audio CD層:2チャンネル・ステレオ[マルチなし]
美麗豪華・紙製デジパック・パッケージ使用

大好評、販売中!



■ドイツ・オーストリア音楽の本質を真っ正直に伝えるベーム

生前はウィーン・フィルやベルリン・フィルから神のように崇められ、

カラヤンと人気を二分したオーストリアの名指揮者カール・ベーム(1894-1981)。

音楽を流麗に磨き上げるカラヤンの派手な音楽作りと比べて、

素朴で質実剛健・愚直なまでに音楽に忠実なベームの音楽は、

ドイツ・オーストリアのクラシック演奏の本質を伝えるものとして高く評価されていました。

1970年代以降、つまりベーム70代後半から80代にかけての晩年の10年間は、

クラシック音楽の伝統の守護神としての存在感を増し、

特に日本においては3度の来日公演の絶賛とも相まって、

急激にその評価と人気を高めていった時期でもありました。

そのベーム生涯最後の10年間の冒頭に録音されたのがこのモーツァルト「レクイエム」です。

 




ドイツ・グラモフォンにおけるモーツァルト録音の担い手    

 

「モーツァルト指揮者」としてのベームの名声は

すでにドレスデン国立歌劇場を率いていた1930年代に確立されており、

その後ウィーン国立歌劇場に移ってからは、

戦中・戦後を通じてウィーンの伝説的なモーツァルト・アンサンブルの基礎を築き上げています。

すでにSP時代から主要交響曲の録音を手掛けており、

LPが導入されてからもオペラの全曲盤を続々と録音するなど、

レコード面でも高く評価されていました。

 

ベームは、19世紀生まれでありながらも、感傷的なロマン主義とは一線を画し、

「新即物主義(=ノイエ・ザハリッヒカイト)」とも称された、テンポの恣意的な伸縮のない、

拍節感が明確なモーツァルト解釈は、20世紀後半のモーツァルト演奏の本流を体現したものといえるでしょう。

ベームが1955年から録音を開始したドイツ・グラモフォンでは、

ステレオ時代に入ってベルリン・フィルとの交響曲全集(1959年〜1968年録音)という

ビッグ・プロジェクトのほか、「ドン・ジョヴァンニ」、「フィガロの結婚」、「魔笛」というオペラ全曲盤の録音を担い、

「モーツァルトはベーム」と役割を振られていたかのような存在感を発揮していました。

さらにこうして録音という形で固定され広く喧伝・販売されることによって、

ベームのモーツァルト解釈の素晴らしさが世界中の音楽愛好家に伝えられることにもなったのです。




ベーム晩年の充実ぶりを刻印した奇跡の名演

この「モーツァルトはベーム」というイメージは、ベームの1970年代の録音にも、

ベルリン・フィルとのセレナード集、オペラ全曲盤録音の継続、

ウィーン・フィルとの管楽協奏曲集などの大きなプロジェクトとして継承されていきます。

1971年4月に録音された「レクイエム」はその中でもこのイメージの強化に最も貢献した録音と位置付けられます。

ベームにとってはモノラル時代のフィリップス録音(ウィーン響)以来

待望のステレオ再録音で、ライヴとは無関係にレコード録音のための純粋なセッションが組まれ、

これほどの大曲にしては珍しく2日間で収録されました。ベームの晩年様式ともいうべき

極遅のテンポに拠りながら全く弛緩したところがなく、強靭な生命力に貫かれ、

この時期のベームの充実ぶりを刻印した文字通り奇跡の名演といえましょう。

長めの弓運びでたっぷりと歌われる弦楽パート、ウィーン式の楽器を使った深みのある管楽パートは、

ともにウィーン・フィルならではのコクのある響きを放ち、そこに加わるエディト・マティスを

はじめとする当時30代の粒選りの独唱者、発声・ディクションともに名指揮者バラッチュによって

見事にトレーニングされた大編成のウィーン国立歌劇場合唱団が、

モーツァルト最晩年の慟哭を生々しく伝えています。ベームはこの録音の8ケ月後に

オーケストラをウィーン響に変えて、ウィーン市内のピアリステン教会で「レクイエム」の映像を収録しており、

ちょうどこの時期この作品に深く傾倒していたことが伺えます。

 

 



最適の距離感で捉えられたオーケストラ・合唱・独唱    

 

録音を担ったのはドイツ・グラモフォンのベテラン、ヴォルフガング・ローゼとギュンター・ヘルマンスのコンビ。

客席が空だと残響が多く、セッション録音は必ずしも容易ではない

ムジークフェラインザールの響きの本質をとらえる手腕は見事。セッションの写真によると、

実際の舞台上には合唱団だけで、オーケストラは座席を取り払った平土間に置かれており、

舞台上に演奏者全員を詰め込むよりも各パートの分離のよい音作りを狙ったのではないかと思われます。

その配置が功を奏したと思われ、ホール自体の持つ美しい残響を採り入れつつも

手前にあるオーケストラとその奥の合唱の各パートがぼやけることなく、

最適の距離感で捉えられています。独唱者の艶やかな美声も明晰ですがこれも近すぎず、

合唱・オーケストラとのバランスも実に自然に構築されています。定評ある名盤だけに

CD時代初期の1984年にCD化されて以来、カタログから消えたことがなく、

1996年にはOriginal Image Bit Processing (OIBP)方式でリマスターされたDGオリジナルスにも組み込まれ、

2004年にはSuper Audio CDハイブリッド、2010年にはSuper Audio CDシングルレイヤーでも発売され、

さらに近年はMQA-CDや2度目のSuper Audio CDハイブリッド盤(2021年)としても出ているなど、

新しいテクノロジーの真価を図るための基準盤ともいえる引っ張りだこの名盤です。

 

今回、通算3度目となるSuper Audio CDハイブリッド化に当たっては、

これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、

妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、

新たに構築した「Esoteric Mastering」を使用。入念に調整されたESOTERICの

最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。

またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、

オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。

 



『モーツァルトの悲痛な叫びが聴き取れる』    

 

「ベーム自身の旧盤よりも出来ははるかに良く、音の深みと厚さにかけてはその比ではない。

『キリエ』の荘重極まりない開始の中に、モーツァルトの悲痛な叫びが聴き取れる。

間もなく生命を失おうとしている者の最後の歌の叫びが。

これほど心を痛める音楽、これほどその痛みを現代にまで伝達する演奏はそんなにあるものではない。

ここにはベームという指揮者の、完成に近づこうとする者の祈りがある。」

 『レコード芸術』1971年12月号 推薦盤

 

 「この演奏はベームがモーツァルトを通して自らのレクイエムを演奏していたのではないか、

という気がしてくる。ゆったりとした大きな構えで、音楽はだんだんと沈み込んでゆき、

後半では悲痛な感じさえある。比較的若手の歌手を起用したのもそのためではなかったろうか。」

 『クラシック・レコードブック VOL.5 オペラ・声楽曲編』1985年

 

「ここにはベームでなければ表せない奥行きの深い、

死を前にしたモーツァルトの心底をのぞかせるような再現がある。

引きずるような足取りで始められる《イントロイトゥス》のオーケストラによる

序奏から死者を悼む思いがみなぎっている。合唱団も充実した響きと心のこもった歌いぶりで

それをしっかりと受け継いでいる。また《キリエ》のフーガでの堂々とした演奏展開、

《ディエス・イレ》での全身からほとばしりでるような激しさ、《ラクリモサ》でのやさしさに溢れた祈りなども

ベームの内面的な豊かさを実感する。」

 『クラシック不滅の名盤800』1997年

 

「死と向き合う作曲家の男性的な気概が前面に押し出され、毅然とした姿勢が印象的だ。

深々とした低弦、スケールの大きな構え、抜群のバランス感覚、

曲の隅々まで行き渡る揺るぎない精神力に満ち満ちている。

それに加え、独唱陣がそれにふさわしい気高い歌いぶりを示し、錦上花を添えている。」

 『クラシック不滅の名盤1000』2007年

 

 

  

■収録曲

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)

 レクイエム ニ短調 K.626

 1 レクイエム − キリエ

2 怒りの日

3 奇しきラッパの響き

4 恐るべき御稜威の王

 5 思い出したまえ

6 呪われ退けられし者達が

7 涙の日

8 主イエス

 9 賛美の生け贄

10 聖なるかな

11 祝福された者

12 神の小羊 − 永遠の光

 

エディット・マティス(ソプラノ)

ユリア・ハマリ(アルト)

ヴィエスワフ・オフマン(テノール)

 カール・リッダーブッシュ(バス)

 

ウィーン国立歌劇場合唱団

合唱指揮:ノルベルト・バラッチュ

ハンス・ハーゼルベック(オルガン)

 

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

指揮:カール・ベーム

 

[録音]1971年4月13日〜14日、ウィーン、ムジークフェラインザール

[初出]Deutsche Grammophon 2530 143(1971年)

 [日本盤初出]ドイツ・グラモフォンMG2299(1971年11月)

 

[オリジナル・レコーディング]  

[エグゼクティブ・プロデューサー]ハンス・ヒルシュ、エレン・ヒックマン  

[レコーディング・プロデューサー]ヴォルフガング・ローゼ  

[バランス・エンジニア]ギュンター・ヘルマンス

 [Super Audio CDリマスタリング]

 [Super Audio CDリマスター]2022年9月 エソテリック・オーディオルーム、「Esoteric Mastering」システム

 [プロデューサー]大間知基彰(エソテリック株式会社)  

[リマスタリング・エンジニア]東野真哉(エソテリック株式会社)

 [テクニカル・マネージャー]加藤徹也(エソテリック株式会社)

 [解説] 浅里公三、寺西 基之

 [企画・販売]エソテリック株式会社  

[企画・協力] 東京電化株式会社