SACD ハイブリッド

晩年ヨーロッパで神のごとく崇められたセルによる、

明晰を極めたベートーヴェン。 

 
ベートーヴェン:

劇音楽《エグモント》、交響曲第5番《運命》

ジョージ・セル指揮

ウィーン・フィルハーモニー 管弦楽団

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ピラール・ローレンガー(ソプラノ)

価格:3,972円(税込)
ESSD-90251[SACD Hybrid]
DSD MASTERING
Super Audio CD層:2チャンネル・ステレオ[マルチなし]
美麗豪華・紙製デジパック・パッケージ使用

大好評、販売中!



■クリーヴランド管弦楽団に黄金時代をもたらしたハンガリーの神童  

 

20 世紀に活躍した指揮者の中でも、

格段に大きな足跡を残したジョージ・セル(1897.6.7 ブダペスト– 1970.7.30 クリーヴランド)。

 

ハンガリー・ブダペスト生まれながら幼少期をウィーンで過ごし、11 歳でピ アニストとしてデビュー、

作曲家としてもユニヴァーサル・エディションと10 年間の専属契約を結び、

16 歳の時に急病の指揮者に代わって急遽指揮台に立ち、指揮者としてデビューするなど、

音楽的才能 に恵まれた神童としてのエピソードは数えきれません。

 

R.シュトラウスとの交友やE.クライバーの下で のベルリン国立歌劇場での指揮など、

第2 次大戦前のヨーロッパでの八面六臂の活動もさることながら、

セルの名前が今日でも知られているのは、

何と言ってもクリーヴランド管弦楽団に黄金時代をもたらした立役者として、でしょう。

セルは第2次大戦後の1946 年にアメリカ市民権を得て、

ラインスドルフ の後任としてクリーヴランド管弦楽団の音楽監督に就任し、

驚くほど厳しい練習によって磨きぬかれた アンサンブルを作り、

同団を20 世紀オーケストラ芸術の規範とも言うべき世界最高の存在に仕上げたのです。

 




透明度高く、クリーンで端正な音楽づくり    

 

セルの音楽の特徴は、磨きぬかれた透明度の高い響きと、

クリーンで端正な表現、一分の隙もない 造形の均衡にありました。

そして、そこには常に冷静に音楽の外側に立っているように見えながら、

あらゆる作品の純粋な音楽美を見事に掘り出す音楽性があり、

特にモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスなどの演奏には、

長年のヨーロッパにおける経験を生かした格調高い解釈で定評がありました。

 

その特質が最もよく発揮されたのはクリーヴランド管との演奏でしたが、

非常に厳格なリハーサルを課すことで知られたセルは、

客演するオーケストラでさえも短時間で自らの色に染めあげ、

「セルの音楽」を実現することができました。

 

クリーヴランド管音楽監督としてシーズン中はアメリカに留まっていたセルですが、

クリーヴランドのシーズンが終わる初夏から盛夏の音楽祭の時期はヨーロッパに滞在し、

ウィーン・フィルを始めとするヨーロッパのオーケストラと共演し、

その名声を高め、やがて「神のような」 と形容され存在にまで崇められるようになりました。




血の共感が生んだウィーン・フィルとの最晩年の正規録音「エグモント」

セルがウィーン・フィルと共演したのは1919 年のことで、

この時はピアニストとして、フェリックス・ワイン ガルトナーの指揮でシューマンのピアノ協奏曲を弾いています。

指揮者としては1922 年に自作の「抒情的序曲」を指揮したのが最初。

しかしセルとウィーン・フィルの関係が密になるのは第2 次大戦後のことで、

1949 年にザルツブルク音楽祭で「ばらの騎士」を指揮して以来、定期的にザルツブルクで共演するようになりました。

 

1966 年には指揮者として初めて定期演奏会に招かれ、以後亡くなるまで毎シーズン客演し、

ウィーン芸術週間やベートーヴェンの第9、ブルックナーの第8 番など、重要な演奏会の指揮を担っています。

ウィーン・フィルはセルの中に、自分たちと同じ血脈を持つ同志としての音楽家 を見出し、

セル自身も音楽的ルーツを共有するウィーン・フィルの個性を愛でていました。

 

クリーヴラン ド管との絆やコロンビア・レコードとの専属関係のなどのために、

ウィーン・フィルとのセッション録音が実現したのは1964 年のカーゾンとのモーツァルトのピアノ協奏曲2 曲と、

この1969 年のベートーヴェ ン「エグモント」だけでした。

 

 



ベートーヴェン生誕200 年を寿ぐ記念盤    

 

序曲ばかりが有名な「エグモント」ですが、

1970 年の作曲者生誕200 年を機に、ドイツ・グラモフォン からカラヤン/ベルリン・フィル盤が、

そしてデッカからはこのセル/ウィーン・フィル盤が相次いで発売され、作品の知名度アップに貢献しました。

 

セルはクリーヴランド管では序曲を除いてこの作品を指揮し ておらず、

おそらくこの録音が生涯唯一の演奏になったのではないかと思われます。

セルが亡くなる約8 か月前の録音で、結局はセルの追悼盤として発売されることになりましたが、

一瞬の緩みもない筋肉質な音楽は全盛期のセルそのもの。

1950 年代まではオペラ指揮者としてのキャリアが長かったセル らしく、

アリアでのローレンガーを支える呼吸感や情景描写も見事です。

 

録音はデッカのウィーン録音 の拠点であったゾフィエンザールで行われ、

明晰かつ精細なセルの音楽づくりのもと、ウィーン・フィル の濃密な響きが立体的に整理され、

ティンパニの粒立ちまではっきりと捉えた、デッカらしい鮮明なサウンドで収録されています。

クレールヒェンの情熱的なアリアを歌うローレンガーも存在感が大きく、

その迫真的な歌唱がリアリティをもって再現されています。

 



ベイヌムと共同指揮者をつとめたコンセルトヘボウ管との名演    

 

セルがロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を初めて指揮したのは1936 年のことですが、

やはりその 関係が密接になるのは第2 次大戦後の1948 年以降のことで、

1958 年から61 年にかけてはエドゥア ルド・ヴァン・ベイヌムと同管の共同指揮者を務めています。

生涯演奏回数では103 回とウィーン・フィ ルとの33 回を上回り、

録音もLP5 枚分をデッカとフィリップスに残しています。

 

当ディスクの交響曲第5 番は、1966 年11 月、

セルにとってコンセルトヘボウへの最後の客演の機会にフィリップスによって録音されたもので、

この時は10 回の演奏会をオランダ国内で行い、そのうち5 回でこのベートーヴェンの第5番を指揮しています。

セルのベートーヴェンの交響曲といえば、

1957〜64 年にかけてエピック/ コロンビアに録音したクリーヴランド管との全曲が知られていますが、

このコンセルトヘボウとの第5 番は、

1963 年10 月のクリーヴランド管との同曲の録音からわずか3年での再録音であり、

専属契約が厳 しかった当時としては異例のことでした。

 



ロジックを積み重ねた立体的なベートーヴェン「第5 番」    

 

クレジットはないものの本拠地コンセルトヘボウで録音されたと思われる第5番ですが、

ボディのある オーケストラのサウンドがホールの残響に埋もれず、血の通った立体的な響きとして眼前に現れるのは、

録音会場の特性を知ったフィリップスのエンジニアの耳の賜物でしょう。

 

コクのあるコンセルトヘボウの 個性的な木管パート(特にホルン)の動きが手に取るように捉えられ、

弦楽パートを含む全オーケストラ とのモティーフの絡み合いが面白いようにクリアに聴こえるのは、

セルの鍛錬によるものでしょう。

ベー トーヴェンが一つの小さなモティーフをもとに組み立てた立体的な建築物のような趣がある

この交響曲の構造を透かし彫りするかのようです。

興が乗ったセルの唸り声や指揮台を踏む音も収録されています。

 




最高の状態でのSuper Audio CDハイブリッド化    

 

この2 つのベートーヴェン録音は、セルの全ディスコグラフィの中でも重要な録音であるため、

アナロ グ時代にも必ずカタログに残されてきたもので、

CD時代になっても「エグモント」は1988 年に「レコード 芸術」の名盤コレクションでいち早くCD化され、

1996 年には「クラシック・サウンド」で20ビット・リマスター、

2015 年にはタワーレコードの企画で24 ビット・リマスターが行われています。

 

また第5 番も1998年にノーノイズ・システムでリマスターされた「レジェンダリー・クラシックス」でCD化され、

2001 年には 「フィリップス・グレイト・レコーディングズ」、2004 年には「アナログ名盤50」でハイブリッド盤として発売 され、

2015 年にはタワーレコードの企画で24 ビット・リマスターも行われました。

 

今回のSuper Audio CD 化に当たっては、

これまで同様、使用するマスターテープの選定から、

最終的なDSD マスタリング の行程に至るまで、妥協を排した作業が行われています。

特にDSD マスタリングにあたっては、D/A コンバーターとルビジウムクロックジェネレーターとに、

入念に調整されたESOTERIC の最高級機材を 投入、またMEXCEL ケーブルを惜しげもなく使用することで、

オリジナル・マスターの持つ情報を余すところなくディスク化することができました。




『作品を再認識させる素晴らしい演奏』    

 

「セルの彫りの深い堂々たる演奏に圧倒される。

セルの棒は全体に丸みを帯びているが第2曲や第6曲の間奏曲ではキビキビとして切れ味がよく、

山場を巧みにつくっている。特に第8 曲「メロドラマ」から終曲「勝利の交響曲」にかけての盛り上がりは圧巻で、

異常な緊迫感を生む。独唱者のローレン ガーも清純なクレールヒェンらしく清らかで堂々とした歌唱を聴かせる。」

 (『レコード芸術』1970 年10 月号、推薦盤)

 

 「セルがウィーン・フィルを振った唯一のレコードは、全曲が演奏される機会の極めて少ない、この作品であった。

ウィーン・フィルのためか、セルの指揮は重厚で、メリハリの利いた中に、柔和な表情もたたえている。

しかし、圧巻は何と言っても第8 曲の「メロドラマ」と終曲「勝利の交響曲」である。

まさに感動 的な謳いあげに、背筋がぞくっとする思いである。

脂の乗り切った時期だけに、ローレンガーの歌唱は 清純にして、輝くばかりである。

ナレーションも実に全体をドラマティックに盛り上げている。」

(『クラシック・レコード・ブック1000 VOL.2 管弦楽曲編』、1986 年)

 

「セルという指揮者は、いうまでもなくクリーヴランド管とのコンビで我々は深く馴染んでいるわけなのだが、

ここではその彼がウィーン・フィルを指揮している点が興味深い。

基本的にはもちろんアメリカの オーケストラを相手にしても変わるわけではなく、

均整のとれたセンスの良い音楽づくりなのだけれど、 ウィーン・フィルを相手にした場合のセルは、

ほんのちょっとした、肌触りのようなものが違ってくる。より 柔らかで柔軟性を増してくるとでもいえばよいのだろうか。

ローレンガーを含めて、ここに聴くベートー ヴェンは程よく吟味されており、その懐が深い。」

(『ONTOMO MOOK クラシック名盤大全 管弦楽曲編』、1998 年)

 

「序曲以外はほとんど演奏機会のないこの作品を再認識させる素晴らしい演奏だ。

セルはよほど気合 が入っていたようで、スタジオ録音にもかかわらず唸り声も聞こえてくるほどの熱演だが、

造詣が全く崩 れておらず、常に音楽的な求心性を失わないところが彼らしい。

ウィーン・フィルも自分たちの持ち味 をしっかりと活かしつつ、セルの要求にしっかり答えている。

出番こそ多くはないもののローレンガーの 歌唱も見事。好悪は分かれるだろうがヴッソウの語りも迫真的だ。」

(『クラシック名盤大全』、2015 年)

 


 

■収録曲

ベートーヴェン

Complete Incidental Music to Egmont, Op. 84 by Johann Wolfgang von Goethe

 (劇附随音楽《エグモント》 作品84(全曲)(ゲーテの戯曲による))

 [1] 序曲

[2] 第1 曲:クレールヒェンの歌〈太鼓をうならせよ〉 Lied (Vivace): "Die Trommel gerühret!"

[3] 第2 曲:間奏曲 第1 番 Zwischenakt I (Andante)

 [4] 第3 曲:間奏曲 第2 番 Zwischenakt II (Larghetto)

[5] 第4 曲:クレールヒェンの歌〈喜びにあふれ、また悲しみに沈む〉 Lied (Andante con moto): "Freudvoll und leidvoll"

 [6] 第5 曲:間奏曲 第3 番 Zwischenakt III (Allegro - Marcia: Vivace)

 [7] 第6 曲:間奏曲 第4 番 Zwischenakt IV (Poco sostenuto e risoluto)

 [8] 第7 曲:クレールヒェンの死 Clärchens Tod (Larghetto)

 [9] 第8 曲:メロドラマ〈甘き眠りよ! お前は清き幸福のようにやって来る〉 Melodrama (Poco sostenuto)

 [10] 第9 曲:戦いのシンフォニー Siegessymphonie (Allegro con brio)

 

 Symphony No. 5 in C minor, Op. 67 (交響曲 第5 番 ハ短調 作品67 《運命》)

 [11] 第1 楽章 Allegro con brio

 [12] 第2 楽章 Andante con moto

 [13] 第3 楽章 Allegro

 [14] 第4 楽章 Allegro

 

ピラール・ローレンガー(ソプラノ)〔エグモント〕

クラウス=ユルゲン・ヴッソウ(語り)〔エグモント〕

ヴァルター・レーマイヤー(オーボエ・ソロ)〔エグモント〕

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団〔エグモント〕

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団〔交響曲第5 番〕

指揮:ジョージ・セル

 

 [録音]1969 年12月11日〜15日、ウィーン、ゾフィエンザール〔エグモント〕

 1966 年11月、アムステルダム、コンセルトヘボウ〔交響曲〕

 

[初出]SXL 6465〔エグモント〕(1970 年)、802 769 LY〔交響曲第5 番〕(1967 年)

[日本盤初出]SLC1859〔エグモント〕(1970 年9 月) 45X7501〔交響曲第5 番〕 (1967 年11 月)

 

 [オリジナル・レコーディング]

 [プロデューサー]ジョン・モードラー〔エグモント〕

[バランス・エンジニア]ゴードン・パリー〔エグモント〕

 

[Super Audio CD プロデューサー]大間知基彰(エソテリック株式会社)

[Super Audio CD リマスタリング・エンジニア]東野真哉(JVC マスタリングセンター(代官山スタジオ))

 [Super Audio CD オーサリング]藤田厚夫(有限会社エフ)

 [解説]諸石幸生 広P大介

[企画・販売] エソテリック株式会社

 [企画・協力] 東京電化株式会社