SACD ハイブリッド

1977 年、ピアニストとして
絶頂を極めていたブレンデルが、
異色の共演で打ち立てた巨大な室内楽のメルクマール。
レコード・アカデミー大賞受賞の名盤、
初のSuper Audio CD ハイブリッド化。
 
 

シューベルト:
ピアノ五重奏曲「ます」&さすらい人幻想曲
 
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
クリーヴランド四重奏団のメンバー他


価格:3,143円(税別)
ESSD-90121[SACD Hybrid]
DSD MASTERING
Super Audio CD層:2チャンネル・ステレオ[マルチなし]
美麗豪華・紙製デジパック・パッケージ使用


SOLD OUT!


正統派の巨匠、アルフレッド・ブレンデル

   2008年に引退するまで、20世紀後半から21世紀初頭にかけて、みずみずしく格調高い表現を聴かせる正統派の巨匠として知られた、チェコ生まれのピアニスト、
アルフレッド・ブレンデル(1931年生まれ)。

 6歳でピアノを始め、ザグレブを経て第2次大戦中の1943年に移ったグラーツ音楽院で学び、さらに戦後、ウィーンに赴いて独学でピアノの研鑽を続けたブレンデルに大きな影響を与えたのは、ルツェルンのマスタークラスで接したエドヴィン・フィッシャーでした。

 持ち前の卓越した技巧と知的な分析力に加え、フィッシャーの薫陶を受けたブレンデルは音楽家としての奥行きを増し、ブゾーニ国際コンクールで優勝を果たすなど、ピアニストとしてのキャリアを順調にスタートさせました。


 

目覚ましく躍進した1970年代のブレンデル  
 
 バッハからシェーンベルクに至る幅広いレパートリーを持っていたブレンデルは、最初からレコーディングに積極的で、すでに1960年代からアメリカのヴォックスやヴァンガード・レーベルに数多くの名盤を残しています。

 この時期にブレンデルはベートーヴェンの代表的なピアノ作品をほぼ網羅し、ハイドン、モーツァルト、シューベルト、シューマンなど、ドイツ・オーストリアの作曲家の王道ともいえる作品を立て続けにレコーディングしたものの、その名が真の意味で世界的に知られるようになったのは、1970年に専属契約を結んだフィリップス・レーベルへのレコーディングを通じてでした。

 1969年にブレンデルがウィーンからロンドンに移ったのと期を一つにするように、1970年に開始されたフィリップスへのレコーディングは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の再録音を皮切りに、マリナー指揮アカデミー室内管とのモーツァルトのピアノ協奏曲全集(1970年〜84年)、シューベルトのピアノ作品集(1971年〜74年)、ハイティンク指揮ロンドン・フィルとのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(1975年〜77年)など、作曲家ごとの大規模なチクルス録音を並行して展開させ、その知性あふれる新鮮な演奏解釈と当時のフィリップス・レーベルならでの明晰なサウンドとが相俟って、絶大な評価を受けるようになりました。




若きアメリカのカルテット、クリーヴランド四重奏団との異色の共演     
 
 そうした充実のレコーディング活動を続けていたブレンデルがフィリップスで初めて取り組んだ室内楽が、1977年のクリーヴランド四重奏団メンバーとのシューベルト「ます」でした。

 ソリストとしてのレコーディングに専念しているばかりかに思えたブレンデルによる突然の室内楽録音であったというだけでなく、1969年にマールボロ音楽祭で結成されたアメリカのカルテット、クリーヴランド四重奏団との共演であったという点が大きな注目を集めました。

 当時のアメリカのソリスト級の実力を持つ生え抜きの奏者を4人そろえた感があったクリーヴランド四重奏団はその冴えた技巧と機能的なアンサンブル能力によって、これまでの団体とは一線を画し、カルテットの歴史を塗り替えるとも目されるほどの評価を獲得していました。

 1972年のブラームスの弦楽四重奏曲全集を皮切りに、RCAによって続々と発売されたアルバムもそれまでの伝統にとらわれることのない若々しく新鮮な解釈であり、新世代のカルテットとして一世を風靡する存在になっていただけに、脂ののりきっていたブレンデルとの共演は大きな期待をもって迎えられたのでした。


前代未聞の新鮮さを持つ「ます」     
 
 その結果誕生したのは、かつてないほどの明晰さを湛え、これまでの作品のイメージを一新させるかのような、鮮度の高い「ます」でした。

 あらゆる音符や音型が吟味されつくし、隅々まで神経が行き届きながらも決してそれが過剰になることなく、知性的でありながらも伸びやかさを失わない室内楽というジャンルの在り方の新しい魅力を開示したのが、ブレンデルとクリーヴランド四重奏団のメンバーによるこのシューベルト「ます」だったわけです。

 1978年の音楽之友社「レコード・アカデミー賞」の大賞を受賞することになったのも当然のことと言えるでしょう。


ヘンリー・ウッド・ホールでの名録音     
 
 なお、「ます」の録音が行なわれたヘンリー・ウッド・ホールは、もともとは聖トリニティ教会という名の教会でした。

 1970年代初頭、オーケストラのリハーサル場所が慢性的に不足していたロンドンで、ロンドン交響楽団とロンドン・フィルがリハーサル・スタジオを探していた際に、当時は使われていなかった聖トリニティ教会の優れた音響が見出され、改装を経て1975年にスタジオとしてオープンしました。

 ロンドンの夏の風物詩プロムスの生みの親であった名指揮者ヘンリー・ウッドの名を取って命名され、そのナチュラルで美しいアコースティックゆえに、オーケストラからソロまで大小さまざまなアンサンブルのレコーディングにも多用されるようになり、瞬く間にロンドンの代表的なレコーディング場所としてその名を知られるようになりました。

 1969年からロンドンに居を移したブレンデルもこのホールを愛し、1970年代以降のレコーディングの多くをここで行なっています。ピアノを中心に各弦楽器の響きを鮮明にとらえた明晰なサウンドは、ブレンデルとクリーヴランド四重奏団による細部まで弾きこまれた緻密な演奏の魅力を高めています。



1970年代のシューベルト・チクルス初期の名演「さすらい人」     
 
 併録の「さすらい人幻想曲」は1971年の録音で、フィリップスに移籍後の数年間にブレンデルが集中的に取り組んだシューベルトのピアノ作品集からの1曲です。

 後期三大ソナタをはじめとする主要ソナタ、2つの即興曲集や楽興の時などを含むこれらの作品をブレンデルは1980年代に再度録音することになりますが、1970年代の一連のシューベルト録音は、極めて入念に彫琢されながらも生き生きとしたエネルギーを失わず、当時のブレンデルの充実ぶりをそのまま刻み込んでいるかのようです。

 この「さすらい人幻想曲」も、作品全体を貫く構成感、シューベルトならではの美しい歌心と、終楽章のフーガを弾き抜くヴィルトゥオーゾ的な力技の鮮やかさを両立させた名演といえるでしょう。

 この「さすらい人幻想曲」のレコーディングが行なわれたザルツブルクのモーツァルテウムは1841年創立の名門大学で、併設されたホールもレコーディング会場として知られています(グロッサーザール[大ホール]とウィンナーザール[小ホール]の2つがあり、どちらでレコーディングされたかはクレジットされていません)。



最高の状態でのSuper Audio CDハイブリッド化が実現     
 
 今回のSuper Audio CDハイブリッド化に当たっては、これまでのエソテリック企画同様、使用するアナログ・マスターテープの選定からデジタルへのトランスファー、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業が行われています。

 特にDSDマスタリングにあたっては、DAコンバーターとルビジウムクロックジェネレーターに、入念に調整されたエソテリック・ブランドの最高級機材を投入、また同社のMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、貴重な音楽情報を余すところなくディスク化することができました。



「シューベルトの音楽そのものの純粋性を表出した、稀有の一例」

ピアノ五重奏曲「ます」について

 「ここにかつてないほどシューベルトの神髄に迫る表現が生み出されていることに驚嘆した。この演奏では、弦がピアノを支え、あるいは対立するのではなく、文字通りピアノに同化し、主従を考えさせないほどの融合を実現している。
歌う呼吸も自然であり、テンポは絶えずデリケートに揺れ動きながら迫力更新を重ねて、一瞬たりとも緊張を失うことがない。シューベルトの音楽そのものの純粋性を表出した、稀有の一例である。」
(『レコード芸術』1979年10月号)


 「リリースされた当時から、ブレンデルの円熟した味わいと若き弦楽奏者たちの清新な表情が見事にバランスし、融合した稀に見る名演として高く評価されてきた。
シューベルトを得意とするブレンデルのピアノは、透明感に満ちた美しい音色を駆使しての情感豊かなリリシズムと、キリリと引き締まった造型感のバランスが絶妙で、それだけでも大いに魅力的。
ただそれに触発されたクリーヴランド弦楽四重奏団のメンバーが、アンサンブルを緻密に保つだけでなく、新鮮さと覇気を持った演奏でブレンデルに反応しており、実にスリリングな成果を上げている。」
(『ONTOMO MOOK クラシック不滅の名盤1000』、2007年)


 「譜面の読みが鋭く、作品に対する切り込みが深い、いわば合理的な解釈により正当的な演奏として印象に残る。一方、テンポの揺れが自然で、そこに息づいている情感の豊かさや呼吸緊密さなどにも、注目すべきものがある。
ピアノと弦楽器群が、どのパートも突出することなく、実に見事な融合を見せている。そして、その節度を保った情緒表現は、演奏に格調高さを与えており、この演奏者たちの組み合わせが感覚的にも見事なバランスを保っていることを示す。」
(『クラシック名盤大全 室内楽曲編』、1998年)


 「ブレンデルは相当に頑固なピアニストだ。この「ます」のような室内楽の場合でも、独奏曲のときに示す彼の世界を頑なまでに守り抜き、崩そうとはしない。
ここにおいても、若いクリーヴランドSQの音楽の方に、彼から寄り添っていくようなことはほとんどせず、彼は彼の世界を作り上げることに没入する。
その世界が並々ならぬものだから、それにあわせようとする共演者たちの努力たるやたいへんだ。だからこそ、この演奏の独自性ができたのだろう。」
(『クラシック不朽の名盤1000』、1984年)


さすらい人幻想曲について

 「このレコードが発売されて、それまでは長いばかりで面白くないとされていた変ロ長調ソナタが名曲として浮かび上がった。
「さすらい人幻想曲」もブレンデルの見事に考えられた構成美によって、新しい響きを生んだ。ブレンデルはこれらの曲のブームの仕掛け人だ。」
(『レコード芸術別冊 クラシック・レコード・ブックVol.5 器楽曲編』、1986年)


 「シューベルトのピアノ曲の重要作は、ソナタであれ、小品であれ、全て収録されている。ブレンデルは、元来、切れ味の鋭さで聴き手を魅了するのではなく、どこか温もりを感じさせ、親愛の情を生じさせるピアニストである。
そういう気質がシューベルトの作品に実に有効に作用、おおらかで虚飾のない世界が生み出される。華麗なる音響に勝る誠実な<音楽>こそ、ブレンデルの狙いであろう。」
(『レコード芸術別冊 クラシック・レコード・ブックVol.5 器楽曲編』、1986年)




■収録曲

フランツ・シューベルト
ピアノ五重奏曲 イ長調 D.667(作品114)《ます》

1. 第1楽章: アレグロ・ヴィヴァーチェ

2. 第2楽章: アンダンテ

3. 第3楽章: スケルツォ(プレスト)

4. 第4楽章: アンダンティーノ(主題と変奏)

5. 第5楽章: フィナーレ(アレグロ・ジュスト)

6. 幻想曲 ハ長調 D.760(作品15)《さすらい人》


[演奏]

アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
1-5
クリーヴランド弦楽四重奏団員
ドナルド・ワイラースタイン(ヴァイオリン)
マーサ・ストロンギン・カッツ(ヴィオラ)
ポール・カッツ(チェロ)
ジェイムズ・ヴァン・デマーク(コントラバス)


[録音]
1977年8月16日&17日、
ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール(1-5)、

1971年11月13日〜19日、
ザルツブルク、モーツァルテウム(6)

[初出] 9500442(1-5/1978年)、6500 285(6)

[日本盤初出] X7843(1978年8月)、X5677(6)

[オリジナル・レコーディング] [レコーディング・プロデューサー]
フォルカー・シュトラウス(1-5)、ヴィルヘルム・ヘルヴェック(6)

[バランス・エンジニア]
セース・フイジンガ(1-5)、ヴィレム・ヴァ・レーウェン(6)

[レコーディング・エンジニア]
ディルク・ヴァン・ディルク(1-5)、フランス・ヴァン・ドンゲン(6)

[Super Audio CDプロデューサー] 大間知基彰(エソテリック株式会社)

[Super Audio CDリマスタリング・エンジニア] 杉本一家
(ビクタークリエイティブメディア株式会社、マスタリングセンター)

[Super Audio CDオーサリング] 藤田厚夫(有限会社エフ)

[解説] 諸石幸生 大木正興

[企画/販売] エソテリック株式会社

[企画/協力] 東京電化株式会社