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伝説のクライバー唯一のヴェルディ録音
録音嫌いで知られたカルロス・クライバー(1930-2004)が正規のセッション録音で残したオペラ全曲盤はわずか4つ。
その中で1960
年代後半から晩年まで最も数多くオペラ公演を指揮して深い関係にあったミュンヘンのバイエルン国立歌劇場のアンサンブルと録音した二つのオペラのうち、「こうもり」は既にこのシリーズでSuper
Audio CD ハイブリッド化していますが、今回はもう一つの「椿姫」をSuper Audio CD
ハイブリッド化いたします。
クライバーが1970
年以降に指揮したヴェルディのオペラは「椿姫」と「オテロ」だけですが、そのうち正規のセッション録音が行なわれたのはこの「椿姫」だけです。
◆喜怒哀楽のドラマを千変万化に彩るクライバーの手腕
クライバーが「椿姫」を初めて指揮したのは1960年、ライン・ドイツ・オペラでのことで、それ以来シュトゥットガルトやミュンヘンで繰り返し取り上げています(最後に指揮したのは1989年、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場)。
コトルバスを主役に据えた「椿姫」の新演出をバイエルン国立歌劇場でクライバー
が指揮したのは1975
年4月のことで、コトルバスはそのままに、アルフレードをドミンゴ、ジェルモンをミルンズというより強力な歌手に入れ替えて翌年5
月に集中的な録音セッションが行われ、さらに1977年に追加のセッションを行なって完成させたのがこの録音です。
クライバーの緻密で俊敏な指揮のもと、バイエルン国立管弦楽団は強靭で引き締まった筋肉質な響きを獲得し、オーケストラ・パートに込められた喜怒哀楽のドラマを千変万化に彩っています。
ヴィオレッタという華やかでありつつも切ないキャラクターを繊細に描き出すコトルバス、アルフレードの直情的な感情の起伏をストレートに歌うドミンゴ、そしてジェルモンという身勝手かつ包容力のある父親像を具現化したミルンズと、主役3人に適役が配されているのも大きなポイントです。
(左から)イレアナ・コトルバス、プラシド・ドミンゴ、シェリル・ミルンズ
◆最高の状態でのSuper Audio CD
ハイブリッド化が実現
録音はミュンヘン市内のビュルガーブロイケラーというビアホールで行なわれました。当シリーズで既にSuper
Audio CD
化したケンペ/ミュンヘン・フィルの録音(シューベルト「ザ・グレイト」、ベートーヴェン:交響曲全集)の録音が行なわれたのと同じ会場です。
1885年に開店したこのビアホールは1830
人を収容できる大規模な空間を擁し、ヴァイマール時代以来政治的な集会にも頻繁に使用され、ヒトラーのミュンヘン一揆の舞台ともなった歴史的な建物でした。
その優れた音響効果のゆえに、またヘルクレスザール以外に録音に適したホールがなかったミュンヘンでは、ステレオ時代にオーケストラの録音にも重宝されていました。この録音では歌手やオーケストラの各パートが鮮明に収録され、スリムで引き締まったクライバーならではの響きが再現されています。
なおこの「椿姫」は2004
年にエミール・ベルリナー・スタジオによって一度Super Audio CD ハイブリッド化されており、今回が2度目のSuper Audio CD
ハイブリッド化となります。
今回のSuper Audio CD
ハイブリッド化に当たっては、これまでのエソテリック企画同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSD
マスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業が行われています。
特にDSD マスタリングにあたっては、DA
コンバーターとルビジウムクロックジェネレーターに、入念に調整されたエソテリック・ブランドの最高級機材を投入、また同社のMEXCEL
ケーブルを惜しげもなく使用することで、貴重な音楽情報を余すところなくディスク化することができました。
◆「ヴェルディの、ついに水っぽくなることのない抒情が完璧に示されている」
「第1幕の前奏曲が終わって幕が上がる。その部分を聴いただけで、このオペラを指揮してのクライバーの素晴らしさがわかる。前奏曲の暗とそれにつづく部分の明の対比を、これほど鮮やかにきかせる指揮者は、カルロス・クライバーをおいて他にいない。ここでは、ヴェルディの、ついに水っぽくなることのない抒情が完璧に示されている。」
(『クラシック・レコード・ブック1000
VOL.6
オペラ&声楽曲編』)
「テンポも響きもリズムもきりりと引き締まり、躍動感と旋律美を十二分に生かした指揮、そしてヒロインのコトルバスが最高だ。華やかさと品格と切ないニュアンスがすべて真実味を持って迫ってくる点において比類がない。他の歌手陣も豪華メンバーだ。」
(『ONTOMO
MOOK クラシック名盤大全 オペラ・声楽曲編』)
「クライバーならではのまことに生彩溢れる演奏である。と同時にクライバーは、第1
幕の前奏曲〜、このオペラの悲劇性を精妙きわまりない表現によって明らかにし、常に生き生きとした流れと劇的で鮮やかな変化を備えた演奏によって、音楽の最深部にまで的確な光を当てつくしている。バイエルン国立管弦楽団からこのように精緻な陰影に富んだ響きと表現を引き出した手腕も、まさに至芸というべきだろう。」
(レコード芸術別冊『不朽の名盤1000』)
■収録曲
ヴェルディ:歌劇「椿姫」(全曲)
3幕の歌劇/台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ
(アレクサンドル・デゥマ・フィス戯曲による)
<配役>
ヴィオレッタ・ヴァレリー:イレアナ・コトルバス(ソプラノ)
フローラ・バルヴォア:ステファニア・マラグー(メッゾ・ソプラノ)
アンニーナ:ヘレーナ・ユングヴィルト(ソプラノ)
アルフレード・ジェルモン:プラシド・ドミンゴ(テノール)
ジョルジョ・ジェルモン:シェリル・ミルンズ(バス)
ガストン子爵:ヴァルター・グリーノ(テノール)
ドゥフォール男爵:ブルーノ・グレッラ(バリトン)
ドビニー公爵:アルフレード・ジャコモッティ(バリトン)
グランヴィル医師:ジョヴァンニ・フォイアーニ(バス)
ジュゼッペ:ヴァルター・グリーノ(バリトン)
フローラの従僕:パウル・フリース(テノール)
使者:パウル・ヴィンター(テノール)
[演奏]
バイエルン国立歌劇場合唱団
合唱指揮:ヴォルフガング・バウムガルト
バイエルン国立管弦楽団
指揮:カルロス・クライバー
[録音]1976
年5月14日〜21日、
1977年1月26日、6月25日&26日
ミュンヘン、ビュルガーブロイケラー
[日本盤初出]MG8300〜01
(1978年2月)
オリジナル・レコーディング
[エクゼクティヴ・プロデュサー]Dr.ハンス・ヒルシュ
[プロデューサー]ハンス・ヴェーバー
[レコーディング・エンジニア]クラウス・シャイベ
[Super
Audio CD プロデューサー]
大間知基彰(エソテリック株式会社)
[Super Audio CD
リマスタリング・エンジニア]
杉本一家(ビクタークリエイティブメディア株式会社、マスタリングセンター)
[Super Audio CD
オーサリング]
藤田厚夫(有限会社エフ)
[解説]諸石幸生
K田恭一
[企画・販売]エソテリック株式会社
[企画・協力]東京電化株式会社
◆
カラヤン&ベルリン・フィル、初の、そして唯一の英デッカ録音
ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)とベルリン・フィルによって1972
年に録音されたプッチーニ「ボエーム」は、指揮・オーケストラ・歌手・録音とあらゆる点において、このオペラの理想的な録音とされる名盤です。
またカラヤン&ベルリン・フィルにとって唯一のデッカ録音となったという点でも歴史的な意味合いを持つ録音です。
◆「ボエーム」の最高傑作
カラヤンが1963年にミラノ・スカラ座で上演した「ボエーム」は、フランコ・ゼッフィレルリの演出とともに、このオペラの理想的な舞台として絶賛されました。1965
年には舞台の映像化も行なわれ映画として各地で上映され、主役のミミを可憐に演じたフレーニとともに「ボエーム」というオペラのイメージを最も鮮明な形で具現化した舞台として定着しました。
それから7年、フレーニのミミはそのままに、オーケストラをベルリン・フィルに持ち替え、さらに新進気鋭のパヴァロッティ(まだ髭のないころ)をロドルフォに迎えて録音が実現したのがこのデッカ盤です。
カラヤンがベルリン・フィルのダイナミックかつ繊細な表現力を最大限に生かして、プッチーニがオーケストラ・パートに託したドラマを完璧に再現していくさまは鮮やかなほど。そのオーケストラの豪華なカンバスの上で、適材適所の歌手がみずみずしい情感あふれる歌を披露しています。
主役の二人はもちろんのこと、マルチェッロにヴェテランのパネライ、コルリーネにギャウロフ、ムゼッタにはDG録音の「メリー・ウィドウ」(当シリーズでSuper
Audio CD ハイブリッド化済み)の主役を歌わせたハーウッドなど、心憎いまでに配慮の行きとどいたキャスティングです。
◆最高の状態でのSuper Audio CD ハイブリッド化が実現
レコーディング・エンジニアのジェームズ・ロックによると、カラヤンは、このオペラに慣れていなかったベルリン・フィルにオーケストラだけの綿密なリハーサルを行なうことでプッチーニの語法を習熟させ、さらに歌手には暗譜で歌うことを求め、基本的に場面ごとの大きなテイクを録ることで、作品のドラマの流れを途切れさせないように配慮したとのことです。
録音が行なわれたイエス・キリスト教会は、ベルリン郊外のダーレム地区にあって1950
年代初頭から1972
年までドイツ・グラモフォンによってベルリン・フィルの録音がほぼ独占的に行なわれていた教会です。
デッカがこの教会でベルリン・フィルを録音するのはこの「ボエーム」のセッションが初めて(そして現在に至るまで唯一)のことで、その意味でも歴史的な録音といえるでしょう。
ステレオ初期から「ソニックステージ」を標榜してオペラ録音には一家言を持つデッカの総力を結集した録音に相応しく、教会の豊かな響きを十分に生かした大きな空間の中で、スケールの大きな音像を展開させています。
特に第2
幕で独唱・合唱・少年合唱や別働隊のバンダなどのさまざまなアンサンブ
ルが動員される時の遠近感の付け方の見事さや、第3
幕冒頭の冬の戸外の静謐な情景など、舞台が鮮明に眼に浮かぶような音づくりがされています(その意味で、同じ教会で4年前に収録されたベームの「フィガロ」のストイックな音づくりとの比較は興味深いところです)。
今回のSuper
Audio CD ハイブリッド化に当たっては、これまでのエソテリック企画同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSD
マスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業が行われています。
特にDSD マスタリングにあたっては、DA
コンバーターとルビジウムクロックジェネレーターに、入念に調整されたエソテリック・ブランドの最高級機材を投入、また同社のMEXCEL
ケーブルを惜しげもなく使用することで、貴重な音楽情報を余すところなくディスク化することができました。
◆「カラヤンが録音したプッチーニ録音の中でも随一の名盤であり、
フレーニ、パヴァロッティというこの時代を代表する名歌手の声の絶頂期の素晴らしい記録」
「もしオペラの上演に古典的・規範的名舞台というのがあるとすれば、1963
年にミラノ・スカラ座で生まれたゼッフィレルリ演出、カラヤン指揮の《ボエーム》はその好例として真っ先に挙げられる。
カラヤンはその後20
年に幾度となくこの上演を指揮し、そしてフレーニ以下最も理想的な歌手たちを集めてこのレコードを録音した。美しく細やかな音色と効果に満ちたカラヤンの指揮、フレーニのみずみずしい情感、4人のボヘミアンたちの個性的な歌、すべて申し分ない出来栄えである。」
(『クラシック・レコード・ブック1000
VOL.6
オペラ&声楽曲編』)
「カラヤンが録音したプッチーニ録音の中でも随一の名盤であり、フレーニ、パヴァロッティというこの時代を代表する名歌手の声の絶頂期の素晴らしい記録である。1972年の録音で、ベルリン・フィルの重厚極まりない音色は、プッチーニの音楽に相応しいとは言い難いが、ある種のシンフォニックなそのアプローチは、ユニークな美しさを生み出している。
音楽のイニシアティブはカラヤンが握っているが、フレーニの精妙な役作りには、カラヤンさえもがその覇権を譲る。フレーニは最上のミミの演唱であり、パヴァロッティのロドルフォも彼の最高の歌唱。名手パネライの人情味に満ちたマルチェルロ、ギャウロフのコリーネも絶品。」
(『ONTOMO
MOOK クラシック名盤大全
オペラ・声楽曲編』)
■収録曲
プッチーニ:歌劇「ボエーム」(全曲)
4幕の歌劇/台本:ジュゼッペ・ジャコーザ、ルイージ・イルリカ
(アンリ・ミュルジェールの小説・戯曲「ボヘミアン生活の情景」)
<配役>
ミミ:ミレッラ・フレーニ(ソプラノ)
ロドルフォ:ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール)
マルチェルロ:ロランド・パネライ(バリトン)
コルリーネ:ニコライ・ギャウロフ(バス)
ムゼッタ:エリザベス・ハーウッド(ソプラノ)
ショナール:ジャンニ・マッフェオ(バリトン)
ベノワ、アルチンドロ:ミシェル・セネシャル(テノール)
パルピニョール:ゲルノート・ピエチュ(テノール)
税関の官吏:ハンス=ディートリヒ・ポール(バリトン)
税関の警官:ハンス=ディーター・アッペルト(テノール)
歌唱指導:アントニオ・トーニ
(左から)ギャウロフ、ハーウッド、パヴァロッティ、
フレーニ、マッフェオ、パネライ
[演奏]
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
合唱指揮:ヴァルター・ハーゲン=グロル
シェーネベルク少年合唱団
合唱指揮:ゲルハルト・ヘルヴィッヒ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
[録音]1972
年10月、ベルリン、
イエス・キリスト教会
[初出]SET565〜6
[日本盤初出]SLC-7191〜2 (1974 年1
月)
オリジナル・レコーディング
[プロデューサー]レイ・ミンシャル、ジェームズ・マリンソン
[レコーディング・エンジニア]
ゴードン・パリー、ジェームズ・ロック、コリン・ムアフット
[Super
Audio CD プロデューサー]
大間知基彰(エソテリック株式会社)
[Super Audio CD
リマスタリング・エンジニア]
杉本一家(ビクタークリエイティブメディア株式会社、マスタリングセンター)
[Super Audio CD
オーサリング]
藤田厚夫(有限会社エフ)
[解説]諸石幸生
宮澤縦一
[企画・販売]エソテリック株式会社
[企画・協力]東京電化株式会社